2021年09月17日
相続による権利の承継については、遺産分割、特定財産承継遺言、遺贈等の別を問わず、法定相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を具備しなければ、第三者に対抗することができない旨の規定が新たに設けられました。また、債権を承継した場合における対抗要件具備の方法の特則についても定められました(Q44参照)。
新法の意義
民法899条の2第1項の規定が新設されたことにより、今までは登記がなくとも対抗し得るとされてきた相続分の指定や遺産分割方法の指定による不動産の取得についても、対抗要件を具備することが必要とされます。これは今までの判例法理を変更するものです。実務上多用されている「相続させる旨の遺言」については、改正により「特定財産承継遺言」と定義付けされました(民1014A)が、これについても速やかに対抗要件を具備しなければ、遺言による権利の取得を対抗できなくなる可能性があります。これに対して、法定相続分に応じた権利の取得については、改正後も登記がなくとも第三者に対抗できますので、従前のルールを変更するものではありません。
民法899条の2第1項の規定は、第三者との関係について規定するものであるため、共同相続人間においては登記の有無は問題となりません。例えば被相続人A、相続人がB、Cの二人の子の場合において、AがBに遺産である不動産全部を相続させる旨の特定財産承継遺言を残していた場合、仮にCが法定相続分で相続登記をしたとしても、第三者が現れる前においてはCの登記は無権利の登記であり、Bは登記がなくても不動産全部の権利取得者として、Cに法定相続分による登記の更正を請求することができます。しかし、Cが更正登記手続に応じない間に、もしCの債権者がC持分を差し押さえたような場合には、
Bは民法899条の2第1項により第三者に対抗できない結果、権利の一部を失う結果となります。
アドバイス
遺言による相続登記の依頼を受けた場合には、今まで以上に迅速な対応が求められる場合があります。例えば、受益相続人以外の相続人に債務があり、相続人の債権者が権利行使する可能性がある場合や、遺言によって法定相続分を下回る相続人が強硬な手段に出そうな場合など、相続登記が早い者勝ちになってしまうおそれがあるからです。そのため、相続が発生してからの対応では、遅れをとる可能性もないとはいえません。そこで、そのような可能性がある遺言作成に関与する場合には、遺言作成の段階から相続発生後のリスクに対する説明を十分に行い、遺言執行者に就任しない場合であっても、相続開始後に速やかに動けるような準備をしておくことが望ましいでしょう。