2021年09月17日
遺言執行者は、自己の責任で、第三者にその任務を行わせることができるとされました。
なお、やむを得ない事由により第三者にその任務を行わせる場合には、遺言執行者はその選任及び監督についての責任のみを負います。
1.改正前の規律
改正前の民法1016条は、遺言執行者の復任権を原則的に否定し、例外的に、やむを得ない事由がある場合や遺言によってあらかじめ許されている場合にのみ、復任権が認められていました。そして、第三者にその任務を行わせる場合には、その選任及び監督について、遺言執行者は相続人に対して責任を負うものと定められていました。
これは、遺言執行者は他の法定代理人とは異なり、遺言者との信頼関係に基づいて選任される場合が多く、任意代理人に近い関係があることを考慮したものです。
2.復任権の必要性
しかし、遺言執行者の職務は、遺言の内容いかんによっては非常に広範に及ぶこともあります。それにもかかわらず、遺言執行者には必ずしも法の専門家でない遺言者の親族等が指定されることも多く、事案によっては、司法書士等の専門家にこれを一任した方が適切な遺言の執行を期待することができる場合もあります。
また、遺言者が遺言執行者を指定しない場合には、遺言執行者は任意代理人よりも法定代理人に近い立場にあるものといえます
3.改正後の規律
改正法では、こうした点を考慮して、遺言執行者についても、他の法定代理人と同様の要件での復任権が認められました。具体的には、遺言執行者は、原則として自己の責任で第三者にその任務を行わせることができるものとしつつ、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従うものとされました(民1016@)。
復任権を行使した場合の責任についても、第三者に任務を負わせることについてやむを得ない事由があるときは、他の法定代理人の場合と同様に、遺言執行者は、相続人に対してその選任及び監督についての責任のみを負うものとして(民1016A)、その責任の範囲を明確にしています。なお、遺言者が別段の意思を表示した場合の責任については、特別の定めが設けられておらず、解釈により定められます。
<参考:復任権の有無と遺言執行者の責任>
第4章 遺言制度に関する見直し
アドバイス
遺言執行者には遺言者の親族が指定されることも多く、その者が高齢であったり多忙であったりしたときに、遺言執行者の執務全般を専門家に依頼したいという要望は、これまでも少なからず存在しました。こうした相談が持ち込まれた際に、あらかじめ遺言で遺言執行者が第三者にその任務を行わせることが許可されていなければ、相談を受けた司法書士は相続登記など個別の手続について受任することができるのみで、遺言執行者の執務全般を受任することはできませんでした。
改正法の下では、司法書士などの専門家が、遺言執行者から包括的に委任を受けて、遺言執行者としての職務に当たることが原則として可能となりました。これにより、遺言執行者に指定された者の負担軽減や、円滑な遺言内容の実現につながるものと考えられます。ただし、遺言執行者が第三者にその任務を行わせた場合であっても、相続人に対してなお一定の責任を負うことに留意しなければなりません。